全体の構成

私たちの研究室の論文は,通常,あらまし(Summary), まえがき(序論,Introduction), システムモデル(実験構成),解析や手法の説明,数値例や議論,まとめ,謝辞,参考文献の順で構成されています.
注意するべきは,この順番で執筆することではないことです.このことについては別に述べます.

では,各項目毎に,何を書くのかを説明しましょう.
 

あらまし

論文全体のまとめです.Whatを書く部分です.何をやって何がわかったかを
書きます.背景は不要.分かったことの価値を書くのは良い.
 

まえがき

成果の新規性,有効性を理解させるのが目的です.
過去の研究を引用し,それらとの比較において,新規性を主張します.
(読者・査読者に著者の「造詣」の深さをほのめかす部分でもある)
また,前書き部分で,どのようなモデルで,どんな方法で,どんな成果を得たかを述べ,その成果の有効性を簡単に述べておきます(まえがき と あらまし を読めば論文の概略
がわかるように)
 

モデル

まず成果を得た環境について,そしてそれをどのように理想化(モデル化)したかを書きます.実験ならその実験構成が,現実のどの側面を切り出したものなのかを述べます.解析なら,どのような理想化を
行っているのかを述べます.その理想化の正当性が明瞭であって欲しい.
 

解析・手法の説明

数値例を再現できるにたりる情報を記述する必要があります.理論解析により数値例を求めた論文は,数式の変形の追跡を,第3者が,与えられた記述だけでできるように書く必要があります.(参考文献を引用する場合も,分厚い教科書の書名のみの引用では,数式変形の追跡は不可能) シミュレーションや実験の論文でも,第3者の追試が可能(時間がかかるにせよ)なための情報が必要です.実験,シミュレーション論文ではこの部分がいいかげんで不採録という場合が多いので注意.
 

数値例・議論

「成果」の証拠である現象を示す部分です.数値例をどうやってもとめたかが明確である必要があります.手法は,上で説明済ですから,使用したパラメータを明確にする必要があります.そのパラメータの意味.そのパラメータが変わったら結果にどんな影響がでるかも.

数値例の部分では,たとえばグラフから読み取れる事実(現象)を,その証拠となるのは数値例のどの部分かを明確にすること.また,その現象の理由も必要です.この現象とその理由の説明から,成果に収斂していくように記述されるべきです.
 

まとめ

「成果」の中でも特に重要なものを要領良くまとめたものです.
ここで述べられている成果は,数値例の部分で証拠と共に提示されていることが必要です.

まとめに,あるいは章をあらためて,今後の課題を書く場合があります.数値例から読み取れる予想(証拠が不十分な結論)は何か.その予想を証明するために必要なものが今後の課題です.また,新しいモデルや仮定を,今後の課題としてあげる場合,「それをすると,何が<新たに>わかる」はずか.が重要.単に「より現実に近い(複雑な)」モデルを考えることは解析論文では無意味.それによって,何が明らかになるのかが重要.今後の課題としてあげた部分が行われていなくても,新規性,有効性が有ることが明確にされている必要があります.
 
 
 

目次:章節の名前

上に書いた,まとめ,数値例などは,章の題目としては不適切です.あくまで論文に記述される内容の固まりに名前をつけただけです.実際は数値例だけで2つ以上の章になるかもしれません.
 

研究論文(卒論も)の目次を考えるときは,それぞれの項目のタイトルだけでなくてその項目いの目的を考えましょう.目的とは,単なる羅列ではない.「あなたが何をそこで伝えたいかを,ひとことでいったもの」です.伝えたい内容ですから,当然,能動的になるはずですね.

# あなたの目次案に,目的を加えてみてください.
 

悪い例

  1.衛星の軌道:「色々な衛星軌道の説明」
  1.1 静止軌道:「静止軌道の説明」
  1.2 低軌道 :「低軌道の説明」

良い例

 1.通信衛星における低軌道の位置付け
   「低軌道が通信衛星にとって,未開拓でありかつ有益な分野であること.」
  1.1 静止軌道
      「従来の主役静止軌道が,何故使われてきた.何故これではいけないか」
  1.2 低軌道
      「静止軌道のメリットを保ちつつ,問題を解決するものであること」
      (低軌道の問題は,この"1”の内容と矛盾するので,別の章でのべよう)
 

上の例でも示すように,章全体がある目的をもってかかれています.その中の各節は,それぞれの目的をもっていますが,それは,章全体の目的と矛盾するものであってはなりません.

各章の目的は全体として,論文全体の目的に奉仕するものでなくてはなりません.もちろん論文全体の目的は,あなたの研究によって新たにわかった事柄をつたえることです.ここでも,研究によって得られた結論は,一言でまとめられている必要があります.
 
 
 

段落:章節の下部構造

原稿を書くときには,鉄則があります.それは,節を構成する各段落は,必ず1つ(そして1つだけ)目的を持たなければならないということです.上に述べたように章全体は1つの目的を持っています.その目的を果たすために,複数の節が存在します.それぞれの節は,それぞれ1つずつ目的をもっています.(2つ目的がある節は2つにわけるべき)これと同じ構造がそれぞれの節の中になくてはいけません.  

良い文章(教科書でも論文でも)では,各段落で読者に伝えたい内容が1つずつのべられています.しばしば,段落の最初の1文(ときには前半のどこか,まれに最後に)が,段落全体の内容を代表するようにかかれています.原稿を書くときは,それぞれの段落で述べたい内容はなにかを意識して書きましょう.また,1つの段落に2つの内容があると感じたら,2段落に分けましょう.